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December 2015 の投稿一覧です。

カテゴリー: 総合

投稿者: imaeda

 12月12日土曜日に、真亀公民館で、マイナンバーに関する講演会を行いました。
 特定郵便局長さんらのグループから頼まれたのですが、私自身、マイナンバーについて詳しく知っている訳ではなく、2週間くらい猛勉強しました。

 これでマイナンバー・マスターになれたかもしれないので、ご要望があれば出張講義致します(*^_^*)
 それでは、そのときのレジュメを公開します。

マイナンバーに係わる諸問題        
平成27年12月12日 弁護士 今枝 仁
第1 沿革
 ・1968年 「国民総背番号制」佐藤栄作内閣 ×
 ・1980年 「グリーンカード」(少額貯蓄等利用者カード)少額非課税マル優 ×
 ・2003年 個人情報保護法施行,住基カード発行
 ・2005年 長者番付廃止⇒高額所得者の所得が上昇 国民金融資産1700兆円へ
 ・2007年 ●消えた年金記録問題5000件
⇒第1次安倍内閣倒れ,民主党政権交代に繋がる
 ・2012年 「マイナンバー関連3法案」野田内閣⇒第2次安倍内閣が乗っかる ◎
 ・2015年10月 ◆通知カード 簡易書留で送付
 ・2016年1月 ●個人番号カード発行開始,マイナンバー運用開始
 ・2017年 ◆情報提供等記録開示システム(マイナポータル)運用開始
 ・2018年 ●金融機関での新規口座へのマイナンバー登録(任意)
      ◆民間部門での活用拡大(住宅ローンの審査,保険商品の販売・審査等)
      ◆医療分野への利用拡大(病歴・検査結果の情報管理等) 
 ・2021年 ●金融機関口座とのひも付強制義務化?

第2 マイナンバー法の目的
 1 建前
   【公平・公正な社会の実現】,【国民の利便性の向上】,【行政の効率化】
   ≪分散管理≫ それぞれの行政機関,企業で個別に管理⇒情報交換
◆ 社会保障分野では,年金・雇用保険・医療保険の資格取得・受給・保険料の徴収,生活保護の申請・審査などで活用します。
   ◆ 税分野では,税務署に対する申告書への記載,支払調書,確定申告などで活用します(2016年分から)。
   ◆ 災害分野では,被災者台帳の作成,被災者生活再建支援金,預金や保険の個人確認等の申請手続などで活用します。
 2 本音
   ●富裕層,自営業,農家,脱税事業主に対する課税強化 ※クナヨイ,トウゴサンピン
   ●社会保障制度の安定化(年金の確実な払込,生活保護需給の適正化等)
   現状の不正・不公正・不公平の解消と,国の財源確保
   税務署・国税庁,日本年金機構の情報交換をスムーズ化
   保険業界,医療の現場からも強い要望あり⇒プライバシーの問題大

第3 マイナンバーについて事前に頂いた質問に対する回答                        
Q1   マイナンバーの交付で国民への具体的なメリット・デメリットを教えて下さい。
A1  メリットは,以下の3つです。
1つ目は,行政運営の効率化により,人や財源が国民サービスに振り向けられることです。
2つ目は,社会保障・税に関する行政の手続で添付書類が削減されることやマイナポータルを通じたお知らせサービスなどによる利便性の向上です。
3つ目は,所得がこれまでより正確に把握されることで,きめ細やかな社会保障制度が設計され,より公平・公正な社会が実現されることです。
デメリットは,以下の3つです。
1つ目は,国や自治体が特定の人物の情報を簡単に確認できるようになってしまうため,プライバシー侵害のおそれが生じることです。
2つ目は,マイナンバーの漏洩により,個人情報が流出してしまうおそれがあることです。
3つ目は,マイナンバーによる手続の簡素化により,なりすまし被害が多くなるおそれがあることです。
Q2  マイナンバーの受取拒否には罰則があるのでしょうか?
A2  受取拒否による罰則はありません。
Q3  マイナンバーを故意ではなく,他人に万が一知られて悪用され被害を被った場合,だれがどのように補償していくのですか?そうした場合,国の対策はどのようになっているのでしょうか?
A3  現在のところ,公的な被害補償制度は存在しません。
もちろん,被害者から加害者に対し民事の損害賠償請求が可能ですが,手続には時間的費用的な負担があります。
国の対策としては,漏えいがないように,特定個人情報保護委員会による監視,漏えいや悪用に対する刑罰による抑止等で未然に防ぐしかありません。
Q4  マイナンバー漏えい事故を起こした業者にはどのような刑事罰が科せられるのでしょうか?また損害賠償額はどのくらいが請求できるのでしょうか?
A4  個人番号利用事務等に従事する業者が,正当な理由がないのに,その業務に関して取り扱った個人の秘密に属する事項が記録された特定個人情報ファイルを提供したときは,4年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金,又はその両方が科せられます(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下,「マイナンバー法」という。)48条)。
    同じく個人番号利用事務等に従事する業者が,業務に関して知り得た個人番号を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し,又は盗用したときは,3年以下の懲役若しくは150万円以下の罰金,又はその両方が科せられます(同49条)。
    情報提供等事務又は情報提供ネットワークシステムの運営に関する事務に従事する業者が,その業務に関して知り得た当該事務に関する秘密を漏らし,又は盗用した場合は,3年以下の懲役若しくは150万円以下の罰金,又はその両方が科せられます(同50条)。
    また,個人情報の漏えいについての過去の裁判例によれば,マイナンバー漏えい事故における損害賠償額は,1人あたり数千円から数万円となると想定されます。
Q5  役所以外の所にマイナンバーを伝えるのはとても不安です。マイナンバー情報はどのように保護されるのでしょうか?
A5  本人確認措置(マイナンバー法16条),マイナンバー法の規定によらないマイナンバー情報の収集・保管の禁止(同20条),マイナンバー法の規定によらないマイナンバーをその内容に含む個人情報ファイルの作成の禁止(同29条,2条9項),個人情報保護委員会によるマイナンバーをその内容に含む個人情報の取扱いに関する監督(同33条ないし35条,19条12号括弧書き,2条8項),罰則(同48条ないし57条)などの規定によって,マイナンバー情報は保護されます。
Q6  もしマイナンバーが漏えいしたら,なりすまし被害もおこるのでは?それに対しての対策はあるのでしょうか?
A6  なりすまし被害に対する対策としては以下のものがあります。
まず,マイナンバー利用事務等実施者は,マイナンバーの提供を受けるときに,当該提供をする者が本人であることを確認するための措置をとらなければなりません(マイナンバー法16条)。顔写真入りの個人番号カードか,番号カード又は番号入りの住民票,及び運転免許証やパスポート等の顔写真入り身分証明証の確認が必要です。
また,個人情報保護委員会によるマイナンバーをその内容に含む個人情報の取扱いに関する監督,罰則などの対策も存在します。
Q7  万が一にマイナンバー自体が流出した場合,どの情報までが漏れるのでしょうか?
 A7 マイナンバー自体は,ただの番号なので,問題はありません。しかし,その時点で紐付されている情報が,漏えいする危険があります。
 今すぐではないですが,将来多くの個人情報が紐付されて利用されるようになった場合,例えば年収とか不動産などの財産内訳,医療の受診情報は,漏えい等をした加害者に対して刑事罰を科して抑止するというものしかありません。
   情報の管理に当たっては,これまで各機関で管理していた個人情報は引き続きその機関が管理し,必要な情報を必要な時だけやりとりする分散管理という仕組みが採用されています。また,各機関の間の情報のやりとりは,マイナンバーではなく,システム内でのみ突合可能な役所ごとに異なるコード(暗号化された符号)で行われますので,1つの機関で漏えいがあっても他の機関との間では遮断されます。
    したがって,例えば税務署においてマイナンバーに基づく情報の漏えいがあった場合,税務署で管理されうる財産情報等は漏れることが考えられます。
    なお,前科前例などの情報は,警察署や検察庁において管理されていますが,今の所マイナンバーにリンクされる予定はなく,これを開示することが違法となるという判例もあるので,今後もされないでしょう。アメリカなどでは,重大犯罪や性犯罪を犯した者の住所等を検索するシステムがあります。
Q8  個人番号カードのICチップから医療(病歴,投薬等)情報まで筒抜けになるのでしょうか?
A8  個人番号カードのICチップには,氏名,住所,性別,生年月日,電話番号,パスポート番号,運転免許証番号等,個人を特定する基礎情報のみ登録される見込みです。これは,条例によって地方自治体ごとに追加できます。
医療(病歴,投薬等)情報のようなプライバシー性の高い情報は記録されませんので,それらの情報はカードのICチップからは判明しません。
    但し,将来的に,個人番号カードと医療情報がリンクされたときには,ICチップからというよりは,個人番号から医療情報が検索できるようになる可能性もあります。
    これには,人権団体等から強い抵抗があります。
Q9  税の情報や社会保障の情報を同じ番号で管理すると,マイナンバーが漏えいしたときに,それらの情報も芋づる式に漏えいしてしまうのではないでしょうか?
A9  分散管理,各機関の間の情報の遮断によって,仮に1つの機関でマイナンバーが漏えいしたとしても,他の機関で管理されている個人情報を芋づる式に 抜き出すことはできない仕組みとなっています。
    したがって,それぞれ別の機関で管理されている税の情報と,社会保障の情報が,簡単に芋づる式に漏えいすることはありません。
Q10  マイナンバーの金融機関口座ひもつけは,最終的に強制となっていくのでしょうか?タンス預金が増えていくことにならないでしょうか?対策は?
A10  最終的には強制となっていくことが予想されます。マイナンバー法の最も強い目的の一つだからです。
    そして,財産の額を把握されないためにタンス預金が増えていくことも想定されますが,収入に関してもマイナンバーによって管理されているため,預金口座に入っている額と収入に差があったとしても,タンス預金の額はだいたい想像することが可能であり,タンス預金の効果は低いといえます。もっとも,収入を把握されていない者が,脱税の手段としてこれまで預金口座を使っていた場合に,使わなくなることは考えられます。
    コストやセキュリティの面を考慮しても,タンス預金をすることのメリットはあまりないものといえるでしょう。
 対策としては,利率や管理等で魅力ある預金商品を提供することでしょう。
Q11  貯金や保険の手続きでマイナンバーを通知していただく必要がある際,お客様が拒否された場合手続きができなくなるようですが,そもそもお客様に通知していただくことの法的根拠があるのでしょうか?
A11  マイナンバー法14条が法的根拠となります。
「個人番号利用事務等実施者は,個人番号利用事務等を処理するために必要があるときは,本人又は他の個人番号利用事務等実施者に対し個人番号の提供を求めることができる。」
 マイナンバーの通知を拒んだ結果,手続ができなかったとしても,それは利用者の自己責任であり,対応事業者の責任ではないと言えます。
Q12  送金や振込などでマイナンバーが付帯された取引は,全てチェックされるのですか?
A12  マイナンバーは利用範囲が限定されていますから(マイナンバー法9条),マイナンバーが付帯された取引が全てチェックされるということはありません。
    もっとも,将来的に金融機関口座ひも付けがなされていったような場合,チェックされる範囲は拡大していくと考えます。
Q13  「年金保険受取年間20万円以下の人」「保険金を受け取ったが控除後マイナスの人」は,支払い調書が来ても今までは確定申告されない人がおおかったですが,これからは確定申告されるほうが良いと案内したほうがよいのですか?
A13  確定申告の義務の有無について変化はないので,これからも確定申告はされなくて大丈夫です。
Q14  「年間110万円未満」で子供や孫の名前で親や祖父母が貯金したり,保険料を支払うケースで何か気をつけることはありますか?
A14  年間110万円未満の贈与の場合には贈与税はかかりませんが,マイナンバーの金融機関口座ひもつけにより,贈与ではなく借名預金と判断される等,預金に税金がかけられるようになることも考えられなくはないため,そのようなことに注意すべきでしょう。
Q15  最近,「連年贈与」についてお客様から相談を受けることが多いのでやり方について,課税されないようにするための注意点を教えていただきたいです。
A15  振込みに限らず,贈与をするときには,その日付と金額を変えたり使い道をあらかじめ決めて贈与契約を結び,その内容を明記しておくなど対策をしておくといいでしょう。
Q16  今後新たに非課税貯金されるお客様はマイナンバーの届け出を金融機関にしないと全く非課税で預けることができないのですか?
A16   マイナンバーは住民票を有する者に対して指定されるものですので,非課税申告書などの記載対象となっている者全てがマイナンバーを持っているとは限らず,そのような場合はマイナンバーを記載することはできませんので,マイナンバーの届け出がなくても非課税での預金が可能になります。
Q17  過去に副業されていた方(現在はしていない)もマイナンバーが始まることによって追徴課税等されることがありますか?
A17   有りません。マイナンバー制度導入に伴い,地方税関係手続に変更が生じる者ではなく,マイナンバー制度の導入により副業を行っていた事実が新たに判明するものではないからです。
    但し,マイナンバーが金融機関口座にひも付された結果,口座を調べて新たに所得が発覚するような場合は,税務調査が入るかもしれません。
Q18  通知カードや個人番号カードの記載内容に変更があったときはどうすればよいのですか?
A18  通知カード又は個人番号カードの記載内容に変更があったときは,14日以内に市町村に届け出て,カードの記載内容を変更してもらわなければなりません(マイナンバー法7条5項,17条4項)。
Q19  マイナンバーは任意で変更が可能でしょうか?
A19   マイナンバーは原則として生涯同じ番号を使い続けることとなり,自由に変更することはできません。ただし,マイナンバーが漏えいして不正に用いられるおそれがあると認められる場合に限り,本人の請求又は市町村長の職権により変更することができます(マイナンバー法7条1項,2項)。
Q20  マイナンバー提示すれば,税金などが優遇されるケースがあるのでしょうか?(例 ETCカードのように)病院や税務署,災害時の手間が簡単になると聞きましたが具体的にどのようになるのでしょうか?
A20  現在のところ,マイナンバー提示により税金が優遇されることはありません。
    マイナンバーの導入により,平成29年1月から国の行政機関など,平成29年7月から地方公共団体で情報連携が始まり,社会保障や税,災害対策の手続で住民票の写しなどの添付が不要になります。  
Q21  運転免許証,健康保険証にGPS機能付きICチップがマイナンバーと共に組み込まれるのですか?
A21   Q8で述べたように,ICチップに登録されるのは,住所や氏名,生年月日,性別等であり,現在のところ,GPS機能の搭載等の予定はありませんが,将来的に国民のニーズが高まれば,あり得ないことではありません。
   運転免許証,健康保険証と個人番号カードが統合されていくことは,十分に考えられます。

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投稿者: imaeda

 弁護士は、税理士資格を持っていますが、そのままでは税理士業務はできません。
 たとえば、税務調査への立会等、税理士に与えられている職権については、行使できません。

 税理士会に登録するというのが理想ですが、税理士会費の負担や、税理士会としての会務の負担なども、けっこう生じるようです。
 普段から、納税者の申告業務の依頼を受けてやるわけではありませんので、税理士会への登録というのは、ちょっとハードルが高くなります。

 そこで、次の方法として、通知税理士というのがあります。
 弁護士が、所属弁護士会を通じて、当地を所轄する国税局長に対して、税理士業務を遂行する旨の通知をすることによって、その管内において、税務調査の立会等の税理士業務を遂行することができます。
 その場合、肩書は「通知税理士」であり、単に「税理士」と名乗ってはいけないということになっています。
 私がなぜこの「通知税理士」になったかと言いますと、今、「税務調査士」なる民間資格の受講(インターネット講義)をしていまして、その税務調査士の資格を得るのに、通知税理士になっておく必要があるとされているからです。

 そして、私がなぜ税務調査士の資格を取ろうと考えたかと言いますと、最近、税務事件の依頼が立て続けに続いたからです。
 税務事件というと、「脱税していた悪いやつだろう」と思われる方も多いかもしれません。実際、確信犯的な悪質な脱税もありますが、何も悪いとは思っていなかったことが税務解釈上指摘されるということもあります。
 特に、税理士や民商などに全面的に依頼していて、いきなり税務調査が入り、びっくりしたという会社や人も結構います。
 任せていたとはいえ、納税申告は納税者の責任なのですが、内容によってはちょっと気の毒なケースもあります。
 結果的に申告漏れになっていた部分は、適正な納税をするために税金を追加で納めることに何の問題もなく、むしろそうすべきなのですが、悪質な「仮装または隠ぺい」があったとされて重加算税が課されたり、過去7年間分にさかのぼって課税されるような場合は、本当に納税者自ら悪質な行為と認識があったのかどうか、慎重に調査してもらう必要があります。

 というわけで、私は12月25日から、「通知税理士」となります。来年の4月頃には「税務調査士」となれるよう、勉強中です。

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投稿者: imaeda

まず大前提として、数百円から千円程度の万引きは、初犯や2回目くらいまでは、警察限りで微罪処分、3~4回目くらいまでは検察庁に送られても不起訴、ということを知ってください。
 もともと、その犯罪自体で被害が大きく、刑罰の対象となっているような犯罪ではありません。
 被害者としても、犯人が万引きで捕まるのが3~4回目くらいまでであれば、犯人は処罰されないような犯罪です。
 被害者にとっては同じ被害なのに、犯人が捕まった回数で、処罰されたりしなかったりというのが現状です。
 本来必ず処罰の対象になるような犯罪であれば、病気を理由にして処罰されないというのは不合理だと思いますが、犯人の側の事情で処罰されたりしなかったりする現状をまず前提にしてください。
 被害者からすると、犯人が捕まった回数が少ないから処罰されなかったからといって、どうすることもできないという状況です。

 そうすると、捕まるのが3~4回目くらい(もっと多いこともあり)までの被疑者が不起訴になるのはよくて、刑務所から出所したばかりの人を不起訴にするのは絶対にダメなのか、という議論になります。
 捕まるのが3~4回目までの人は、まだ犯罪性向が進んでいないことから、不起訴になります。
 そうであるならば、執行猶予中の人、出所後間もない人に、刑務所で受刑してもなお窃盗を繰り返してしまう、なんらか不起訴にしてもやむを得ない事情があれば、不起訴にすること自体は許されるのではないかと思います。
 問題は、窃盗症というのが、上記の事情でも不起訴にするのがやむを得ない事情と言えるかどうかでしょう。

 窃盗症は、衝動抑制の病気です。皆さんは、単に窃盗を止められず繰り返すのが、すなわち窃盗症と思っておられるかもしれませんが、そうではありません。
 刑務所に行ってまでして、出所後、また万引きをしたらあの刑務所に行くことになるのに、300円の歯磨き粉を何十個も万引きするというのは、さらに、万引きした品物を毎回店に戻しに行くような事例は、経済的目的でなく、窃盗をすること自体が目的化した衝動行為と言えると思います。これが窃盗症の特徴です。
 お腹がすいたからおにぎりを万引きしたという人は、欲しい物を盗るという経済的目的があるので、窃盗症とは親和しにくいとみられます。

 本件の被疑者は、次に窃盗を犯したら、100%起訴されるでしょう。
 しかし、この状況でさらに万引きをしたとしたら、その行動はやはり不合理で、それこそ窃盗症であるという兆候であるというパラドックスが生じます。
 病気であることを認め治療しながら、病気だから必然的に襲ってくる再犯の衝動を抑え再犯を防止しなければなりません。

 ですので、窃盗症の診断と治療は、万引きで捕まるのが3~4回くらいまでのときに機会を与えるべきと思います。
 その段階では、窃盗症でない犯人もまだほとんど処罰を受けないレベルであり、刑罰との代替のジレンマも少ないと思います。
 窃盗症の治療を受けることを義務付け、それをしなかったことに対して処罰するのではなく、それをせずに次の窃盗をしてしまったときに、通常の窃盗犯であればもう1回起訴猶予になるところを略式罰金にしたり、通常は略式罰金になるところを起訴して執行猶予(ただし保護観察付)にする等、再度の犯罪に対する処分・処罰の面で考慮するというシステムは、法改正や条例がなくても可能なように思います。
 もっとも、事実上、国民の権利を制限し、義務を課すわけですから、法律の留保の観点から、立法や条例制定が望ましいとは思います。

 窃盗を繰り返す者に、だんだんと処罰を重くしていくこともそれなりの理由もありますが、それで再犯を防止できればいいものの、それで再犯を防止できない者に対し、再犯を防止するために効果的な処置をするというのは、それほど不合理なことではないのではないかと思います。
 万引き窃盗罪の実態は、処分をだんだん重くしても繰り返し、被害と被害者が累積していっているのが実情です。その悪循環を、治療によって早く断てられ、再犯を防止できるのであれば、潜在的に被害者になり得る国民全般の利益になるのではないでしょうか。

 最後に、悪人を弁護するときにどういう思いで弁護しているかについてですが、もちろん私も人間ですから、殺人や強姦などの凶悪犯に対しては、嫌悪感も感じますし、憤りも感じます。「なんでこんなに反省しないんだ?」「なんでこうあっけらかんと自分のことばかり考えて主張するんだ?」と思うことも多々あります。
 しかし、日本の刑事裁判が当事者追行主義をとる以上、検察官が訴追して被告人の悪情状を立証し、弁護人が弁護して被告人の良情状を立証して、その双方の立証の結果を第三者である裁判官が判断するのですから、弁護人としては被告人の良情状ばかりを主張立証するのが役割です。弁護人がそれをやらないと、適正な処罰ではなく、重すぎる処罰になります。適正な処罰を実現するには、検察官も、弁護人も、一生懸命ベストを尽くす義務があります。弁護人の弁護の効果で、適正な処罰よりも軽い処罰になったら、それは弁護人のせいではなく、検察官がなすべきことを十分やらなかったからです。
 このように割り切って、弁護士は刑事弁護をやっているのだろうと思います。

 例えは悪いかもしれませんが、私の「PK理論」というのがあります。
 サッカーで、ペナルティアリアの中でファールをしたらPKになるのは、そこがゴールにシュートできるエリアであり、その中でゴールを守ろうとするファールは、偶発的なハンドなどを除き、通常悪質だからです。
 それでPKになりますが、いくら悪質なファールでも、キーパーがいなくてもいい、ということにはなりません。
 キーパーがいて、一生懸命飛んでこそ、PKが成り立ち、ファールをしたチームが失点するのです。悪質なファールだからといって、キーパーは要らないとか、そもそもPKをせずに点を入れるとか、そういうことにはなりません。
 つまり、キーパーがいないと、悪質なファールも罰せられない訳です。
 PKが外れたり、キーパーが止めたりして、失点がなくてファールがチャラになったとしても、それはキーパーのせいではなく、キックを失敗したキッカーの問題です。
 このように考えると、キーパーとしては、たとえファールがどのようなものであろうと、一生懸命飛ぶしかないということになります。

 刑事裁判に置き換えれば、どんなに悪質な犯罪や犯人であろうと、弁護人が一生懸命弁護しなければ、処罰もできないということになります。
 処罰しなくていいのか? 答えはノーでしょう。
 弁護人なしで有罪にし、重い刑にしていいのですか? 近代的自由主義・民主主義・法の支配の理念を持つ国は、全てノーと言っています。それがおかしいと思うのであれば、前近代国家の発想です。
では、弁護人は手抜きをすればいいのでしょうか? これもそれを正当化する理論はないと思います。
 誰かが一生懸命弁護しなければ、悪質な犯罪も処罰できない以上、誰かがやらなければならないし、やる以上は一生懸命やる以外の選択肢はないのです。

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投稿者: imaeda

 わざわざ調べて私を頼って依頼をされた窃盗罪の被疑者の依頼者の方が、不起訴(起訴猶予)になりました。

 窃盗、しかも万引きで起訴猶予というのはありきたりのように思われるかもしれませんが、この方の場合は、窃盗を繰り返し、裁判で執行猶予をもらっても執行猶予期間中にまた万引きをし、刑務所に入って、また出てきて3か月後に万引きをしたのです。
 法律上、刑務所から出て(正式には刑の執行を受け終わってだから、仮釈放の満了から)5年間以内に再犯をした場合は、起訴されたら懲役刑に執行猶予を付けられないことになっています。
 執行猶予中の再犯は、原則実刑ですが、情状に特に斟酌すべき事情があるときは、再度の執行猶予にすることは可能です(但し保護観察付)。
 これに対し、刑務所での刑を受け終わってから5年以内に再犯を犯したら、法律上、起訴されたら法律上懲役刑に執行猶予を付けられない、100%実刑なのです(罰金刑に落ちる場合は別)。
 ですから、起訴猶予なんていうのは、あり得ないくらい厳しい状況です。

 他方、仮に起訴した場合は100%実刑だから(罰金刑の場合は略式手続があるので、検察官は通常の起訴をする場合は懲役刑の求刑を選択します)、起訴のハードルが若干上がっているという面もあります。
 弁護人としては、そこを一生懸命なんとかしようと努力する訳です。

 この方も、赤城高原ホスピタルで「窃盗症(クレプトマニア)」と診断されましたが、健康上の理由で入院はできませんでした。
 その代わり、赤城高原ホスピタルの医師が診察する東京のクリニックに通院しながら、広島でこの9月に出来た自助グループ、KAに参加していました。

 起訴猶予にした検察官は、「本件被疑者は、窃盗症とは認められない」と言っていましたが、窃盗症を理由に一審の実刑判決を破棄して再度の執行猶予にした高裁判決を複数提出していましたから、裁判官は窃盗症と認めるかもしれない、という懸念は持っていたと思います。
 最終的には、健康上の理由が最も大きく影響したのだと思いますが、それでも、健康が回復してから起訴するという方法もある訳ですから、窃盗症の治療の努力をしたことは、成果があったと言えるのではないかと思います。
 もっとも、私が弁護士した人みんながうまくいっている訳ではありません。執行猶予中の再犯、刑務所から出所後の再犯等、ふつうにしていたら実刑に間違いがないような人の弁護で、うまくいくのは3分の2、どう頑張っても実刑判決を覆せないのが3分の1くらいあります。

 みなさんの中には、執行猶予や実刑になっても万引きが止められないような人間を甘やかす必要はない、重く処罰して思い知らせた方が再犯防止になるのだ、と思う人も多いかもしれません。
 確かに、多くの場合、万引きを繰り返す人はそういう人かもしれません。
 しかし、窃盗症は病気です。 
 例えは悪いかもしれませんが、過食症の人の前にケーキを置いたら、食べないで我慢するというのは困難です。だからといって、ケーキを食べたら叩く、というのではなくて、過食症の抜本的治療をする方がいいのです。
 窃盗症も、過食症や薬物、アルコール中毒等と類似した、衝動抑制の障害であり、その病識を自覚して自ら回復する努力をさせることが有効であり、刑罰はあまり改善の効果がないのです。

 まあ、とは言っても賛否両論があるでしょう。
 しかし、犯罪者をきちんと更生させ、無害化することは、我々が犯罪被害に遭わないための抑止としても重要であり、どうすれば再犯を防止できるのかという問題は、その犯罪者や家族らだけの問題ではなく、社会全体の利害に関わる問題です。

 窃盗症(クレプトマニア)の問題に直面する人は、裁判で執行猶予判決を受けたのに再犯をしてしまったり、刑務所から出所して間もなく再犯をしてしまったり、要は刑務所に行く危機が迫った人達です。
 本当は、そこまで至る前に、窃盗症の問題を意識し、診断を受け、治療に家族ぐるみで取り組む等の対処が必要ですが、所詮実刑にならない状況では、あまり期待できません。
 最初は警察で説教、そのうち検察庁に在宅で送られるが不起訴、逮捕勾留されても不起訴か略式罰金、その後ようやく正式起訴されるが執行猶予、執行猶予中に再犯を犯し実刑、というように、段階的に処分が重くなっていくことから、刑罰による威嚇力、感銘力も薄いのだろうと思います。
 
 個人的には、5年間以内に2回飲酒運転をした人にアルコール中毒の診察の義務を課し、診察を受けなかったら罰金を科すという過激な福岡県飲酒運転撲滅条例を参考に、万引きで検察庁に2回送致された時点で処分決定前にカウンセリングを受け、カウンセラーが窃盗症の疑いがあると判断すれば専門病院での治療を受ける、それらをきちんとしなかったら略式罰金等の刑罰を科す、きちんとしたらもう一回起訴猶予にできるというような、少年事件の試験観察のような運用があってもいいと思います。
 それで、万引き常習犯が減ったらいいと思いませんか。
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