2015年06月12日

万引き窃盗症(クレプトマニア)による再度の執行猶予

カテゴリー: 総合

投稿者: imaeda

 昨日、久しぶりに、執行猶予中に再犯を犯した被告人について、再度の執行猶予の判決を戴きました。

 被告人は、30代から万引きを繰り返し、現在80歳台。前回の裁判では、窃盗罪で起訴された後、裁判中にもかかわらず、窃盗をしました。それでも何とか執行猶予判決。
 本当は、この時点までに、窃盗症(クレプトマニア)の診察を受け、徹底した治療に取り組むべきだったのですが、家族らは、窃盗症の疑いを抱きつつも、「さすがに父も執行猶予になれば万引きを辞めるだろう」と楽観してしまいました。
 被告人を1人で買物に行かせないようにしていたものの、完全に徹底できるはずがなく、被告人はまたしても万引きをしてしまいました。

 ここに至って、家族も事態の深刻さを理解し、私に私選弁護を依頼しました。執行猶予中の再犯は、原則的に実刑であり、懲役1年以下の刑で情状に特に斟酌すべきものがある場合のみ、例外的にし再度の執行猶予にすることができます。但し保護観察付です。

 私は、この被告人はやはり窃盗症(クレプトマニア)であろうと思い、窃盗症を含む中毒性患者の専門病院群馬県の赤城高原ホスピタルを受診してもらったところ、窃盗症との診断でした。引き続き入院してもらい、入院生活を医師に観察してもらって、意見書を書いてもらいました。医師の意見書は、被告人は窃盗症(クレプトマニア)であり、入院プログラムへの参加によって症状は落ち着いており、治療を継続することによって再犯を防げる可能性が高いが、刑務所での処遇によっては再犯を防止し得ない、6か月間の入院と2年間の通院をするべきである、というものでした。
 窃盗症の特徴の一つとして、欲しくない物を盗る、必要ない物を盗る、盗ること自体に緊張感や刺激を求め、ストレスを発散させたりする、というものがあります。この被告人は、供述調書で、盗むことにドキドキした刺激感を感じ、その刺激感を感じたいために窃盗をしており、老後日常生活に刺激がなくなったので窃盗を繰り返していた、と述べていました。

 さらに、被告人の妻、長女、長男が被告人の社会復帰を支援すると証言しました。長女は、障害者福祉関係の仕事に就いていましたが、仕事の時間短縮をして平日昼間に被告人の世話をする時間を作りました。長男は、前回の裁判でも情状証人として証言しながらも被告人の再犯を防げなかったということで、面目ない立場でしたが、恥を忍んでしっかりと証言してくれました。

 一番問題になったのは、赤城高原ホスピタルの医師が作成した意見書につき、検察官が不同意の証拠意見を述べ、すぐに証拠採用されなかったことでした。
 医師の診断書や意見書は、鑑定書に関する刑事訴訟法321条4項の類推で証拠能力を認めるというのが裁判例ですが、担当検察官はこれを知りませんでした。馬鹿にするわけではないですが、司法試験に合格されていない検察事務官出身の検察官だったので、議論がちぐはぐしました。

 結局、検察官は成立の真正を争うということで、私としては、作成医師の証人尋問をしてもらうしかなくなりましたが、やはり医師は遠方を理由に断られました。困った私は、同じ医師の意見書が理由で再度の執行猶予がなされた裁判例をいくつか調べ、その事件の弁護人に電話をかけまくって、どうやって証拠採用されたのかを聞きました。そうすると、いずれの事件についても、裁判所が意見書に興味を持って、検察官に同意を勧めたものでした。つまり、多くの裁判所では検察官の同意による証拠採用がなされているのに、私の被告人にはそれが許されないというのです。担当検察官は、「検察庁としては、窃盗症なるものは認めていない。一切同意しないというのが統一方針である」と述べました。

 怒った私は、医師の意見書に添付された医学論文、裁判例、新聞記事などを、1個1個バラしてそれぞれ別の証拠として、取調べ請求しました。また、弁護人の電話聴き取り書で、意見書を作成した医師から、その意見書は間違いなく自分が作成したものであるとの証言を得たと報告する文書を作成しました。

 法廷では、やはり意見書の採用について、すったもんだしました。裁判所としては、検察官が作成の真正について争っている以上、証拠採用できないと。それでゴタゴタしている間に、ひょろっと、検察官が、同意できない理由は、その意見書には刑訴法321条4項が類推されないという意見を述べました。他方で、先ほどの弁護人作成の電話聴き取り書には、同意してしまいました。混乱したのか、不同意の意見の理由を変えてきたのです。
 裁判官は、「えっ、電聴に同意するんですか。これに同意するんなら、意見書は医師が書いたことが証明されるので、意見書も採用しちゃいますよ?」と言い、まず弁護人に意見書の提示命令をかけ、そして証拠採用してくれました。
 この意見書が、再度の執行猶予判決の大きな力となりました。
 私は、検察官が、証拠意見について混乱したフリをして、同意をしないながらも証拠採用できるように一芝居打ったのではないかと思います。

 そういったプロセスを経て、被告人は再度の執行猶予を得ました。
 今回は、家族全員で必死になって被告人の更生と社会復帰に向けて力を合わせて努力したのだし、じっくり治していかなければならない病気と判明したのだから、もう被告人は万引きしないでしょう。
 仮に次やったら、病気だろうが何だろうが、2つの執行猶予と併せて3つの刑を受けに入ることになります。そうしたら、今回の裁判でやったことが、無駄どころか、かえって仇になるかもしれません。
そのときは、何がなんでも不起訴を獲得するしか方法がありませんが、ほとんど無理でしょう。

 なお、執行猶予期間中jに再犯を犯したら原則実刑で再度の執行猶予の法的ハードルが上がると理解している人が多いですが、執行猶予中に次の有罪判決を受けたらというのが福岡高裁裁判例であり、裁判をしている間に執行猶予期間が満了したら、法的には(事実上の影響はともかく)、再度の執行猶予を付すことは、懲役1年以下で情状に特に斟酌すべき事情という要件は外れます。

 いろいろ考えるに、やはり、執行猶予中の再犯で実刑のリスクが高まって初めて、窃盗症の問題に正面から取り組む人が多いと思います。本当は、もっと前に、不起訴になった時点、略式罰金になった時点、初めて公判請求されて執行猶予判決を言い渡された時点で、窃盗症の問題に真剣に向き合うべきでしょう。
 初回の公判請求であれば執行猶予がつくのが明らかなので、国選弁護で手抜きをされることもあります。
 私の別の被告人では、執行猶予になった前回の裁判については、被告人も家族に黙っていたため、裁判を受けて執行猶予判決を受けたことを家族の誰も知らなかったそうです。ふつうは、情状証人を1人くらい立てるものですが、弁護人から家族への連絡は一切ナシ、被告人質問のみで執行猶予判決、という何とも言えないケースでした。
 不起訴にせよ、罰金にせよ、執行猶予にせよ、処分を受けるときは、更生のきっかけでもあります。弁護人としては、単に執行猶予という結果を獲得するだけでなく、その被告人が再犯を犯さない方向性に向くことができるくらいの環境調整をしてあげたいものです。

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