2015年12月01日

窃盗症(クレプトマニア)の被疑者が不起訴(起訴猶予)になりました

カテゴリー: 総合

投稿者: imaeda

 わざわざ調べて私を頼って依頼をされた窃盗罪の被疑者の依頼者の方が、不起訴(起訴猶予)になりました。

 窃盗、しかも万引きで起訴猶予というのはありきたりのように思われるかもしれませんが、この方の場合は、窃盗を繰り返し、裁判で執行猶予をもらっても執行猶予期間中にまた万引きをし、刑務所に入って、また出てきて3か月後に万引きをしたのです。
 法律上、刑務所から出て(正式には刑の執行を受け終わってだから、仮釈放の満了から)5年間以内に再犯をした場合は、起訴されたら懲役刑に執行猶予を付けられないことになっています。
 執行猶予中の再犯は、原則実刑ですが、情状に特に斟酌すべき事情があるときは、再度の執行猶予にすることは可能です(但し保護観察付)。
 これに対し、刑務所での刑を受け終わってから5年以内に再犯を犯したら、法律上、起訴されたら法律上懲役刑に執行猶予を付けられない、100%実刑なのです(罰金刑に落ちる場合は別)。
 ですから、起訴猶予なんていうのは、あり得ないくらい厳しい状況です。

 他方、仮に起訴した場合は100%実刑だから(罰金刑の場合は略式手続があるので、検察官は通常の起訴をする場合は懲役刑の求刑を選択します)、起訴のハードルが若干上がっているという面もあります。
 弁護人としては、そこを一生懸命なんとかしようと努力する訳です。

 この方も、赤城高原ホスピタルで「窃盗症(クレプトマニア)」と診断されましたが、健康上の理由で入院はできませんでした。
 その代わり、赤城高原ホスピタルの医師が診察する東京のクリニックに通院しながら、広島でこの9月に出来た自助グループ、KAに参加していました。

 起訴猶予にした検察官は、「本件被疑者は、窃盗症とは認められない」と言っていましたが、窃盗症を理由に一審の実刑判決を破棄して再度の執行猶予にした高裁判決を複数提出していましたから、裁判官は窃盗症と認めるかもしれない、という懸念は持っていたと思います。
 最終的には、健康上の理由が最も大きく影響したのだと思いますが、それでも、健康が回復してから起訴するという方法もある訳ですから、窃盗症の治療の努力をしたことは、成果があったと言えるのではないかと思います。
 もっとも、私が弁護士した人みんながうまくいっている訳ではありません。執行猶予中の再犯、刑務所から出所後の再犯等、ふつうにしていたら実刑に間違いがないような人の弁護で、うまくいくのは3分の2、どう頑張っても実刑判決を覆せないのが3分の1くらいあります。

 みなさんの中には、執行猶予や実刑になっても万引きが止められないような人間を甘やかす必要はない、重く処罰して思い知らせた方が再犯防止になるのだ、と思う人も多いかもしれません。
 確かに、多くの場合、万引きを繰り返す人はそういう人かもしれません。
 しかし、窃盗症は病気です。 
 例えは悪いかもしれませんが、過食症の人の前にケーキを置いたら、食べないで我慢するというのは困難です。だからといって、ケーキを食べたら叩く、というのではなくて、過食症の抜本的治療をする方がいいのです。
 窃盗症も、過食症や薬物、アルコール中毒等と類似した、衝動抑制の障害であり、その病識を自覚して自ら回復する努力をさせることが有効であり、刑罰はあまり改善の効果がないのです。

 まあ、とは言っても賛否両論があるでしょう。
 しかし、犯罪者をきちんと更生させ、無害化することは、我々が犯罪被害に遭わないための抑止としても重要であり、どうすれば再犯を防止できるのかという問題は、その犯罪者や家族らだけの問題ではなく、社会全体の利害に関わる問題です。

 窃盗症(クレプトマニア)の問題に直面する人は、裁判で執行猶予判決を受けたのに再犯をしてしまったり、刑務所から出所して間もなく再犯をしてしまったり、要は刑務所に行く危機が迫った人達です。
 本当は、そこまで至る前に、窃盗症の問題を意識し、診断を受け、治療に家族ぐるみで取り組む等の対処が必要ですが、所詮実刑にならない状況では、あまり期待できません。
 最初は警察で説教、そのうち検察庁に在宅で送られるが不起訴、逮捕勾留されても不起訴か略式罰金、その後ようやく正式起訴されるが執行猶予、執行猶予中に再犯を犯し実刑、というように、段階的に処分が重くなっていくことから、刑罰による威嚇力、感銘力も薄いのだろうと思います。
 
 個人的には、5年間以内に2回飲酒運転をした人にアルコール中毒の診察の義務を課し、診察を受けなかったら罰金を科すという過激な福岡県飲酒運転撲滅条例を参考に、万引きで検察庁に2回送致された時点で処分決定前にカウンセリングを受け、カウンセラーが窃盗症の疑いがあると判断すれば専門病院での治療を受ける、それらをきちんとしなかったら略式罰金等の刑罰を科す、きちんとしたらもう一回起訴猶予にできるというような、少年事件の試験観察のような運用があってもいいと思います。
 それで、万引き常習犯が減ったらいいと思いませんか。

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